PICK UP

フランス語学科教員のおすすめ図書

2024/09/16

フランス語学科教員のおすすめ図書を紹介します。Bonne lecture !

 

【伊藤達也先生のおすすめ】

社会人になる前に、数時間連続して他人が書いた言葉に付き合う経験を味わっておいていただきたいです。近所に図書館があれば、例えば以下の本を借り(なければリクエストできると思います)、喫茶店に入り、スマホはカバンの奥に押し込み、好きな飲み物を注文し、読み終えるまで席に座り続けてみてください。その間スマホには触らず、読書のための時間と空間を確保します。

『月の裏側 日本文化への視角』(著者:クロード・レヴィ=ストロース 訳者:川田順造 出版社:中央公論新社)

幼少時から浮世絵に憧れ続け、西洋以外の文明にも西洋文明同様の構造があることを主張し続けた文化人類学者レヴィ=ストロースの日本文化論。異文化に対するリスペクトがここまでいくとやや褒めすぎの感もありますが、日本にもフランスに負けない文化があると誇らしく思えるはずです。

『日本語に生まれること、フランス語に生きること 来るべき市民の社会とその言語をめぐって』(著者:水林章 出版社:春秋社)

大学入学後にフランス語を学び、長年大学でフランス語を教えたのち、ある一つの出会いからフランス語についてのエッセイをフランスで書くことになり、それをきっかけにフランス随一の出版社から流麗なフランス語で紡いだ小説を発表し、現在はフランスで大人気の作家となった著者が、自らの来し方を回顧し、現代社会に提言をしています。気に入った章を拾い読みするだけでも学ぶことが大きいはずです。

『方法序説』(著者:ルネ・デカルト 訳者:落合太郎 出版社:岩波書店)

英語のシェークスピア、ドイツ語のゲーテ、イタリア語のダンテ、スペイン語のセルバンテスのように、近代以降に発展する言語の礎を築いた作家がどの国にもいるのが常ですが、フランス語でそれにあたるのは誰かというと、『方法序説』のデカルトになるのではないか、という一つの答えが浮上します。手に入りやすい翻訳はいろいろあるので、読みやすい訳を選んでください。逆にフランス語原文で読んでも現代の感覚からするととても読みにくいです。何語で読んでも誰の訳で読んでもその重要性には変わりがありません。自分にしっくりくる訳者を探すというのも大事な経験ではないでしょうか。

 

【大岩昌子先生のおすすめ】

『名画の中の料理』(著者:メアリー・アン・カウズ 訳者:富原まさ江 出版社:エクスナレッジ) 

著者は英文・仏文学の専門家ですが、セザンヌの絵画《水差しとナス》と料理本『セザンヌの台所』から、本書のインスピレーションを得たとのこと。ちなみに、エクサンプロヴァンスで描いていたセザンヌお気に入りの軽食は、アンチョビを挟んだナスでした。果物を扱う第9章では、ミレーの絵画《梨》とサティの楽譜《梨の形をした3つの小品》、そしてセザンヌのレシピ「洋梨とマルメロのハチミツ添え」が並び、読者は「梨」を切り口とした表象の世界にどっぷりと浸かることできます。名画はもちろんのこと、音楽や文学などのジャンルを横断する、オールカラーの「美味しい」一冊です。

『フランスの歴史を知るための50章』(編著:中野隆・加藤玄 出版社:明石書店)

本書は、ローマ帝国下のガリアからはじまる「古代・中世」、フランスに宗教改革が起きた「近世」、フランス革命から始まる「近代」、そして2度の大戦とそれ以降を語る「現代」という4部と50トピックから構成されています。豊富な写真、地図、年表によって、フランスの政治、社会、文化などを視覚的にも俯瞰できるよう工夫されているので、歴史に苦手意識のある皆さんにもお勧めです。さらに、幅広い内容を描く8つのコラムはいずれも好奇心が刺激される興味深い内容です。

『パリのサロンと音楽家たち 19世紀の社交界への誘い』著者:上田泰史 出版社:カワイ出版社)

19世紀前半のパリは現在とどう違ったのか、また当時の音楽家にとってサロンとはどのような場所でどんな意味を持っていたか、そしてなにより、音楽家たちの個性と作品がコンパクトにわかりやすく解説されています。突然ですが、ポーランドからウイーンを経由し、1831年、パリに到着した作曲家は誰でしょう。「ピアノの詩人」と言えば、もうおわかりですね。音楽家や文学者が集ったサロンでは、こうしたあだ名付けや、ゲームなども楽しまれていました。今もなお人気の作曲家たちが、当時、なぜパリという街にやってきたのか、こんなことにも答えてくれます。

 

【武井由紀先生のおすすめ】

『フランス現代史』(著者:小田中直樹 出版社:岩波書店)

フランス史として、1944年のパリ解放から今私たちが生きている21世紀初頭までを射程に含んでいるので、近代までの歩みを踏まえて読み進めると、「分裂」と「統合」という視点に着目して分析された、古いフランス、新しいフランス、悪戦苦闘するフランス、が見えてきて面白いです。

『言語はこうして生まれる 「即興する脳」とジェスチャーゲーム』(著者:モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター 訳者:塩原通緒 出版社:新潮社)

少し分厚い本ですが、内容的には読みやすいので、言語に敏感なみなさんにはぜひ読んでほしい本です。言葉はあまりにも私たちの日常に溶け込んでいるので、失われでもしなければ文明社会におけるその重要性や役割に気づくことがないかもしれませんが、本書ではジェスチャーゲームをキーワードに、言語学の視点から言語と脳と文化の進化関係について、新しい捉え方を提示してくれます。

『フランス的思考 野生の思考者たちの系譜』(著者:石井洋二郎 出版社:中央公論新社)

これはフランス「的」な思考の参照軸になり得る要素(合理主義、普遍主義)に対して、むしろ異議を申し立ててきた著名な哲学者、思想家、作家の論考や小説を紹介しながら、フランス「的」な思考を考えてみる、という本です。気になる人物や章から読んでいくこともできますし、そもそも思考という営みについても思考する(!)良い機会になると思います。

 

【木内尭先生のおすすめ】

『美観都市パリ 18の景観を読み解く』(著者:和田幸信 出版社:鹿島出版社

パリの景観について書かれた本。都市計画の専門家である著者が、一般読者に向けてわかりやすく、パリの景観の特色やその歴史的な背景を紹介している。「エッフェル塔  軸線の美学が生んだ造形」や「ブールヴァールという並木道  都市壁がパリに遺したもの」など、目次を眺めるだけでもわくわくする。日本の都市景観を考える上でもさまざまなヒントが詰まった一冊。

『世紀の小説 「レ・ミゼラブル」の誕生』(著者:デイヴィッド・ベロス 訳者:立石光子 出版社:白水社)

ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』をめぐる評伝。小説の着想から刊行に至るまでの経緯が、さまざまなトリビアを織り交ぜながら、自由闊達に語られている。この本を読むと、『レ・ミゼラブル』の執筆はそれ自体が一冊の小説に値するようなドラマであったことがよくわかる。『レ・ミゼラブル』に興味はあるけど小説そのものは長過ぎて読む気がしないという人にもおすすめ。

『他なる映画と 1・2』(著者:濱口竜介 出版社:インスクリプト)

『寝ても覚めても』や『ドライブ・マイ・カー』で知られる映画監督の濱口竜介による映画論集。映画講座でのレクチャーをまとめた『他なる映画と 1』と雑誌やパンフレットに発表した文章を集めた『他なる映画と 2』の二巻構成で、ジャン・ルノワール、ロベール・ブレッソン、エリック・ロメールといったフランスの映画監督の作品も数多く取り上げられている。まずは、一巻目の冒頭に収められた「映画の、ショットについて」と題するレクチャーを読んでみてほしい。映画の見方が、さらには世界の見方が、きっと変わるはず。

 

【アンヌ=クレール・カシウス先生のおすすめ】

『マンガで読む 資本とイデオロギー』(著者:クレール・アレ、バンジャマン・アダム 原作:トマ・ピケティ 訳者:広野和美 出版社:みすず書房)

Grâce au talent de dessinateur de Benjamin Adam et de la journaliste Claire Alet, vous pourrez plonger avec plaisir dans le livre de l’économiste Thomas Piketty, ouvrage lui-même traduit en japonais récemment (2023). A travers la généalogie d’une famille française de la Révolution à aujourd’hui, le livre montre avec une grande clareté l’intrication de l’Histoire, du droit, de la politique et de l’économie, et répond à la question : D’où viennent les inégalités et pourquoi perdurent-elles ?

漫画家のベンジャマン・アダムの才能とジャーナリストのクレール・アレットのおかげで、最近日本語に翻訳された経済学者トマ・ピケティの本(2023)を簡単に理解して、楽しめる。革命から現代に至るフランス人一家の系譜を通して、歴史、法律、政治、経済が絡み合っていることを明確に示し、「不平等はどこから来て、なぜ続くのか」という問いに答えている。